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東京高等裁判所 昭和40年(行コ)49号 判決 1966年4月05日

原告 高橋敬明 外五名

被告 東京法務局日本橋出張所登記官

訴訟代理人 岩佐善巳 外二名

主文

本件各控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事  実 <省略>

理由

控訴人敬明、謹一、光昭、竹三郎が昭和三六年一〇月一八日株式会社高橋商店の取締役を、控訴人皆枝、治二が同日右会社の監査役をいずれも辞任し、これにより同会社の取締役、監査役とも法律に定める員数を欠き後任者の選任がなされていないこと、控訴人らがその主張のとおり右会社を相手方として右辞任による変更登記手続をなすべき旨の勝訴の確定判決を得たこと、控訴人らがその主張のとおり東京法務局日本橋出張所に右変更登記申請をしたが、いずれも却下されたこと、そこで控訴人らがその主張のとおり東京法務局長に対し審査請求をしたが、いずれも棄却され、その主張の日に、その通知のなされたことは当事者間に争がない。

ところで株式会社の取締役及び監査役の辞任は商法第一八八条第三項によつて準用する同法第六七条にいう登記事項の変更に当るものであるが(商業登記法第八一条第二項参照)他方商法第二五八条(同法第二八〇条によつて監査役に準用)の規定は辞任により取締役、監査役の任務が終了した場合に、おいて法律(又は定款)に定めた員数の取締役、監査役(監査役は一名と解される)を欠くに至つたときは、新たに選任された取締役、監査役の就任するまで、なおその権利義務を有する旨を定めているけれども、右は単に退任取締役、監査役の権利義務が延長されることを規定したに止まり退任による登記事項の変更には関係がなく、したがつてこの場合にも変更登記がなさるべきであると考えられないではない。

しかしながら商業登記は登記事項を公示することにより第三者に対抗することができることとし(同法第一・二条後段)第三者の利害に重大な影響を与えると共に取引の安全を図り、第三者の不測の損害を防止することを目的とする制度であるから、その登記は実体を表示し、正しい法律関係に合致すべきであることが要請されるのは論をまたないところである。そして商法は同法第二五八条の規定によつて退任した取締役(監査役も同じ)がなおその権利義務を保有する場合について、・その旨の登記をなし得る途を開いていないので、このような特別の場合にその権利義務を保有する者については、依然その地位にあることを公示するのが商業登記制度に合致するものと考えるのが相当である。それ故登記簿上も、その権利関係に合致させ、その地位にあることを表示させるのが相当である。

ところで登記官は商業登記法第二四条の規定により登記の申請につき審査権を有するのであるが、辞任した取締役、監査役の退任登記申請により商法第二五八条(同法第二八〇条により監査役に準用)の規定する法律又は定款に定めた取締役、監査役の員数を欠くに至るかどうかは登記簿の記載に照し容易に審査し得るところであるから、その法律関係につき審査権を有するものというべきであり、本件の場合においては、事実上の辞任は法律上の退任に当らないものとして登記事項の変更が生じていないものと取り扱われるので(本件では数人が同時に辞任しているが、誰が欠員に当らないかを定め得ないので全員について退任にならないものというべきである)控訴人らの本件登記申請は商業登記法第二四条第一〇号にいう登記すべき事項につき無効の原因があるときに準じてこれを却下すべきが相当と解される。

なお控訴人ら代理人は被控訴人は東京地方裁判所昭和三八年(ワ)第三、七八八号事件の確定判決に拘束される旨主張するけれども、その理由のないことは原判決の説示するところ(原判決理由四の項)と同一であるからこれを引用する。

よつて控訴人らの本訴請求は失当として排斥を免れず、これと同趣旨の原判決は相当であるので、本件各控訴を棄却すべきものとし、控訴費用の負担について民事訴訟法第九五条第八九条、第九三条に則り主文のとおり判決する。

(裁判官 中西彦二郎 西川美数 秦不二雄)

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